多音字

中国語には漢字という、現存する言語では非常に珍しい表意文字が
あるため、学習の過程で、他の言語ではなかなか味わえない
楽しみや苦労に遭遇する。成語などもその一つかと思う。

漢字は元来一字一音(もっと昔は一義というのもあったらしい)
主義で、ひとつの字にはひとつの発音しかないのが原則である。
日本語のように「生」という字が、うまれる、しょうじる、
がくせい、きいっぽん、なまほうそう・・というようにいろんな
場所で、いろいろに読まれる、ということがない。この原則に
はずれる例外が多音字である。一応、定義としては、「意味に
よって、読み方が2つ以上ある文字」ということになっている。
「一」や「不」も声調が変わるが、「意味によって」ではない
ので、このグループではない。よく登場する多音字の例を挙げる。

行:hang2 文章の行、店、職業の意。cf銀行 改行
  xing2 上記以外の意味
好: hao4 好む、好み       cf爱好 嗜好 好学
hao3 上記以外の意味
重: zhong4 重い、重さ       cf体重 重量
chong2 重なる 繰り返し    cf重新 重复

*この中国音を聞いた古代の日本人は、「重さ」の方の音を
 「じゅう」、「重なる」方を「ちょう」と写し取った。
 なので、日本語でも2種類の音で意味を区別するように
 なった。「丁寧で、何度も繰り返す挨拶」は「ていちょうなる
 ご挨拶」という。その後、この原則を知らない人たちによって
 一部、誤用が生じた。「2重橋」、「重箱」はその例だが、
 最近になって更に「重複」を「じゅうふく」と読む読み方も
 登場するようになった。

看:kan4 見る
 :kan1 見張る 監視する 見守る  cf 看车的 看守 看病
还:hai2 まだ やはり それでも
 :huan2 返す 帰る        cf 以牙还牙 衣锦还乡
调:tiao2 整える 調節する     cf 调整 协调 众口难调
diao4 上記以外の意味
长:chang2 長い 長さ        cf 万里长城 长吁短叹
zhang3 成長する 年長の     cf 成长 学长 部长  
     グループのトップ
 上の「学长」は日本語の「学長」と異なり、学校における男性の
 先輩、という意味である。女性の先輩「学姐」と対を成す。

変わったところでは、こういうのもある。
饮:yin3 飲む            cf 饮料 饮食
yin4 (動物に水を)飲ませる cf 饮马场
「饮马场」は、「馬を飲み込むところ」ではなく、「馬の
 水飲み場」である。

吐:tu3 (意図的に)吐く cf 吐痰 谈吐
:tu4 (病的に)吐く cf 吐血 呕吐

まだまだいっぱいあるが、どのくらいあるかというと、中国の
漢字全体が5万字と言われていて、その3%にあたる1500字
くらいあるらしい。重要な頻出文字が多い。漢字が常用であれば
あるほど、派生義が生じやすく、読み方も「異読」が生まれ
やすい、ということかもしれない。

日本では多音字を専門に扱った本をまだ見かけない。
参考書などで一部、例が挙がっているだけである。中国の方は
たくさん出版されている。私が愛用しているのは、

常用多音字用法字典 张炳耀 北京广播学院出版社 1991年

で、これでだいたい用が足りる。他に小学生向けで、カラー
イラスト入り(255字収録)の

多音字宝典 玄老汉 春风文艺出版社 2006年

もある。字が大きくて見やすい。

最後に、人の姓のときだけ異読するという文字もあり、人の
名前を読み間違えると失礼にあたるので、押さえておきたい。

任:普通はren4,姓ではren2
查 :普通はcha2,姓ではzha1
曾:普通はceng2,姓ではzeng1

★本日の一文
思君如满月 夜夜减清辉

いなくなったあなたのことを思うと、満月が一晩ごとに白い
輝きを失っていくように、私も次第にやつれ細っていく。



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