多義文

以前にも、部分的に記事にしたことのある内容だが、ひとつの文が
文法的に多様(たいていは2通り)に解釈できる文章のことを
多義文という。中国語では「歧义文qíyìwén」と呼ばれる。
どこの国の言葉にも当然存在するが、そのありように、少しずつ
違いがあり、それぞれの言語の特徴につながっていて興味深い。
中国語のまとまった資料はないかと探していたら、講談社の
中日辞典に特集コラムがあって、たくさんの例が掲載されていた。
ありがたく拝借させていただいて紹介したい。どういう点で
多義なのか、クイズとして考えてみるのも一興である。
曖昧とはいえ、たいていの場合、文脈から判断できるので、
そうそう誤解に結びつくことはないと思う。

1.他想起来了
「彼は思い出した」「彼は起き上がりたいと思った」
「起」を軽声で読めば前者、3声で読めば、後者となる。

2.他借了我一本书
「彼は僕に本を1冊借りた」「彼は僕に本を1冊貸してくれた」
日本語の感覚ではありえないが、多くの言語では、「貸し」と
「借り」を区別せずに同一の動詞で表し、単に貸借関係が
生じる(生じた)ことだけを表現する。中国語もそのひとつで、
貸し方と借り方をはっきり区別したければ、表現にそれなりの
工夫が必要になる。貸し方と借り方を区別しない代わりに、
他の事柄を区別したりする。中国語では有料か無料かを区別する。
有料なら「租」、無料なら「借」。英語でもたしかborrowだの、
rentだの区別があったような気がする。朝鮮語も同様だったと
思う。日本語だと「賃貸しする」「賃借りする」などと、
言葉を付け加えなければならない。あと、消費と非消費を
峻別する言語もあるらしい。お醤油やボールペンは、貸すと
使われて量が減って戻ってくるので消費貸借、本や衣服などは、
汚されたりすり減ったりするかもしれないが、一応原型のまま、
戻ってくると考えて非消費貸借とする。この2つの動詞、全く
違うものを使う。

3.鲁迅的书
「魯迅が所有する本」「魯迅の著作」「魯迅について書いてある本」
これは日本語でも、「魯迅の本」といえば上記3種どれでも表せ、
ぴったり全部対応する。珍しく日中共通である。

4.挑好日子
「よい日取りを選ぶ」「しっかりと日を選ぶ」
「好」は動詞の補語か、後ろの名詞を修飾する形容詞か。

5.他在图书馆查了三天的报纸
「彼は図書館で3日分の新聞を調べた」「彼は図書館で3日間
新聞を調べた」
前者は日本語の感覚で、比較的すんなり受け入れられるが、
後者は中国語の文法を勉強した人でないと、違和感を覚えると
思う。他在美国留过三年的学 「彼はアメリカで3年間留学した」

6.他下午要动手术
「彼は午後、手術を施す」「彼は午後、手術を受ける」
医者でも、患者でもどちらにも使える。便利といえば便利だが、
翻訳するときは、文脈からしっかりと判断して訳して
いかなければならない。他要理发や、他要照相も同様で、
理容師とお客さん、写真を撮る人と撮られる人、どちらにも使える。

7.他也会说日语
「彼も日本語が話せる」「彼は日本語も話せる」
これは「也」や「都」という副詞を初めて習うときに常に
話題に上る定番文法学習教材である。初学の人に、
「彼も日本語が話せる、は中国語で、他也会说日语 ですが、
では、彼は日本語も話せる、は何と言えばいいでしょう」という
意地悪クイズを出すと、*他会说日语也 などと、文言文かと
思うような訳をしてくれる。「也」は、なるほど重複を表す
言葉で、日本語の助詞「も」に対応することはするが、
副詞と助詞では文法的な振る舞いが大いに異なる。助詞は
重複部分をはっきりと指し示すことができるが、副詞には
その機能がなく、単に全体で重複感を表すだけである。しかも「
也」を置く場所は、はっきりと決まっており(主語のすぐ後ろ、
時間副詞があるときはそのすぐ後ろ)、あちこちに移動できない。
助詞の発達した朝鮮語やモンゴル語は日本語と同じ感覚で
処理できるが、ヨーロッパの言語は中国語のお友達で、副詞の
登場となるため、中国語と全く同じような展開になる。

Il sait parler japonais, aussi.
He can speak Japanese, too.

という理解を踏まえて、下記の文を見ると、何と4通りほどの
訳がつけられそうである。

他今天也坐公交车去图书馆
「彼も今日はバスに乗って図書館に行く」
「彼は今日もバスに乗って図書館に行く」
「彼は今日バスにも乗って図書館に行く」
「彼は今日バスに乗って図書館にも行く」

8.发现这种矿石非常重要
「この鉱石を発見したことは非常に重要だ」
「この鉱石が非常に重要であることに気づく」
このあたりになってくると、非常に紛らわしく、外国人学習者は
ただちに反応することが難しいため、すごく長い文の途中で出てきたり、
「听写」で出てきたりすると泣かされる。
以下も同様。

批评老张表扬小李
「張さんが李君を褒めたことを批判する」
「張さんを批判し、李君を褒める」

热爱学校的老师
「学校を心から愛する先生」「学校の先生を心から愛す」

9.这个人连村长都不认识
「この人は村長のことさえ知らない」
「この人のことは村長さえ知らない」
主題となる語(主語ではなく)は文頭に持ってくることも
できる、このことは日中共通なのだが、日本語では助詞を
うまく使って処理できるところ、中国語では助詞がないため、
結果的に多義になってしまう。つまり何が主語で何が目的語かが、
わからなくなってしまう。以下も同様。

鸡不吃了
鶏は食べなくなった
(あれほど大好物だったチキンを食べなくなった)
(鶏はエサを食べなくなった)
これには、実は補足説明が必要で、レアーリア(言語外現実)に
影響される例になる。食用の動物かどうかで事情が異なってくる。
大象不吃了 なら、象が主語だと判断するのが順当だと思う。
(あれほど大好物だった象の肉を・・・)というのは、なんとなく
グルメの度を過ごしているように思われるからである
(そういうこともあるのかも知れないけれど)。

10.他在车上写广告词
「彼は乗車して広告文を書く」「彼は車体に広告文を書く」

「在」が出てくると要注意だと思う。動詞としても、介詞としても
使われるし、主語の所在を表すときもあり、単に場所だけを指定する、
日本語の助詞「に」、「で」に当たる場合もある。頻繁に使用される
重要語だが、文法的機能が豊富なだけに紛らわしさが出てくる。

以上、他に面白い例をご存知の方は、是非ご教授いただきたいと思う。

★本日の学習進捗状況

1.単語帳(Campus Wide)
11冊目 43ページ目(全69ページ、1ページに30単語)
2.「杜拉拉升职记」(8〜261ページ)
133ページ目
3.作文ルール66(2~163ページ)
完了
4.茉莉花 1回目音読完了。2回目。
5.中検スペシャル 光生館の過去問(1999-2012)
2008年度 終了

中検過去問は、一旦ストップして、2009年以降分は
来年2月から、また中検スペシャルとして続けたい。

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