学習の障害

障害というと、近所の工事の音がうるさいとか、勉強しようと
思っていたのに、飲み会に誘われたとか、急に見たいテレビ
番組が出てきたとか、外的要因のものが多い。しかし、
そうではなくて、すでに学習態勢に入っているのに、考え方や
やり方の問題で、所期の効果が挙げられないだけでなく、
マイナスに作用してしまうこともある、そういう障害について
考えてみたい。以下に掲げる3つが外国語学習における最大の
障害だと思うが、実はこれらはいずれも以前にこのブログで
書いたものばかりである。重複してしまうが、今回もう一度
整理して、強調しておきたいと思う。

1.外国語の母国語化
発音を日本語風に覚え、カタカナでルビを振ったりする。また、
日本語のダジャレで覚えて、音が日本語の音になっているのに
気づかない。更に文法面でも、日本語の並べ方(またときには、
英語からの類推で、英語の並べ方)にしてしまう。このように
すると、覚えやすく、理解もしやすいが、いざ実用に供しようと
すると、相手に全く通じない、また相手の言うことが全然
聞き取れない、という悲劇が起こる。中国語学習歴10年以上で、
自分の言うことが相手に通じず、相手の言うことを聞き取れず、
コミュニケーションは、もっぱら筆談に頼っている、という人を
何人か知っている。
この1.は、昨今、良質の音声教材の普及で、以前と比べて減少
傾向にあると思うが、それでも学習者の自覚がないと、常に
陥りやすい危険ではある。それよりももっと厄介なのは、
次の2.と3.である。

2.母語の干渉
外国語の学習といっても、単語の意味は日本語で覚えるしかないし、
文法の説明だって、日本語で書いてあるものを読んで理解するし、
もっと言えば外国語学習の究極の目的が、翻訳・通訳にあると
すれば、母語が頻繁に顔を出すのが現実である。ところが、
日本語の文字や音に頻繁に接することが実に学習の進捗を妨げる。
中国語の勉強のときは、ひたする中国語環境に浸りきる、という
のが理想である。日本語の説明・訳文などを極力見ないようにし、
音読とリスニングを組み合わせて、なるべく「中国語ワールド」に
いる時間を長くする、ように注意する必要がある。有効な対策は
それくらいしかない。。

3.暗記作業の制限
単語や文法事項を覚える際に、自ら制限を設けてしまう。つまり
「この単語は覚えても、あまり役に立たないだろう」と判断して、
覚えるのをやめてしまう人がけっこう多い。ここで重要なことが
2つある。ひとつは、人間の脳の記憶システムの問題。人間の脳は
覚えようとすればするほど、記憶力が鍛えられるようにできている。
パソコンなら記憶容量が決まっていて、メモリーの増設でもしない
限り、容量は増えない、また減りもしない。ところが人間の脳の
記憶容量は大きく変化する。他の器官でも(例えば筋肉など)、
鍛えることによって成長するが、記憶も覚えようと頑張れば、
脳もそれに応じて記憶のシナプスをどんどん増やしてくれ、
物理的に困難になると、脳の外形を変化させてでも、対応しようと
してくれる。このことは科学的に証明されていて、研究した学者は
2004年にノーベル賞を受賞している。筋肉のピークが比較的若い
ときに現れるのに対して、記憶力のピークはずっと遅い。鍛えて
いる人の記憶力は60歳70歳でも、絶好調である。80歳を過ぎてから
初めて、構造的な問題が生じる。逆に覚えようとしなくなれば、
「この人には記憶力は必要ない」と判断され、記憶力も機構も
どんどん衰微・退化していく。「歳を取ったから覚えられない」、
と嘆く人が多いが、「覚えようとしなくなったことで、自ら
積極的に老化を促進している」と考えたほうが正解に近い。また
自ら制限を設けるというのは、ブレーキをかけることになり、
脳内麻薬の分泌も抑えてしまう。つまり、暗いマイナス志向に陥り、
暗記作業を苦痛にさせる。「効率よく」重要なものから覚えようと、
こざかしく立ち回ったつもりが、きっちり逆効果となって
現れるのである。
もうひとつのポイントは、単語なり文法事項の重要度だが、
覚える順番はあまり気にしないほうがよいと思う。普通、我々が
学習上、出くわす事柄は、全て重要と考えてさしつかえない。
もちろん、旅行会話だけできるようになればよい、とかの低い
目標を設定している場合は別だが、高度な言語活動を目指して
いるなら、どの外国語でも1万語の語彙力でも不自由を感じる
はずである。我々が日本語を喋るときでも、それくらいは
日常的に使用している。それが目標とするなら、覚える順番を
決めること自体、非常にナンセンスだと思う。ナマの会話や
文章では、重要度に配慮しながら、単語や文法事項が登場する
わけではない。また、入門の段階で「これは重要かどうか」の
判断はつきにくい。やはり、目に入るもの全てが重要と考えて、
どんどん無制限に覚えようとするのが正解である。この障害に
陥りやすい原因は、やはり覚えなければいけないことが多すぎて、
自分の記憶力に自信がなくなり、つい足がすくんでしまい、
「せめて重要なものだけでも」とか、消極的な考えになって
しまうためと思われる。そう思った瞬間、重いハンディキャップを
背負い込んだも同然の状態になる。「効率よく」の考えを捨てて、
長い道のりをゆっくり楽しみながら歩いていく気持ちになれれば、
この障害は解消する。



★本日の学習進捗状況
1.単語帳(Campus Wide)
11冊目 21ページ目(全69ページ)
2.論説体中国語読解力養成講座
57ページ目/132ページ
3.中国語表現300例
27ページ目/156ページ

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