酸欠

今回も中国語とはあまり関係ない話。一般に「やる気が出てくる」
とか、「モチベーションが上がった」、というような話をよく
聞くが、人間の脳の研究が進んでいる昨今では、これらの
状態のとき、脳の中では実際にどういうことが起こっているのかを
解明しようとしているそうである。人間は麻薬を注射したり、
吸飲したりすると、気持ちよくなれる。実は、上記のような状態の
ときは、外部摂取ではなく、脳の中で自家製の麻薬に似た物質が
分泌される、ということらしい。だから、やる気も出るし、気分も
よくなる。目新しいものに接して、好奇心が湧いてきたとき、何かを
達成したとき、そうなるらしい。それ以外で、脳内麻薬が盛んに
分泌されるときがある。それは人間が呼吸困難に陥り、酸素が
欠乏したときだそうである。これは人に教えられるまで、気が
つかなかったが、なあるほど、と思い当たる話がいっぱいある。
生死の境をさまよい、危篤状態から、生還したときに、「私は
天国を見て帰ってきた」などと言い出す人が多い。そういう本
を出した人もいる。これなんか典型的で、死ぬ前には、天の配剤が、
呼吸困難からくる酸素不足の苦しみを和らげるため、大量の麻薬の
分泌があるらしい。ものすごく気分がよくなった時点で、「天国」
などの幻覚を見るということであろう。
歴史上でも、中世のトルコのイスラム教の一派(名前を忘れてしまった)
では、信者獲得のため、美しい音楽を流し、激しい踊り(フィギュア
スケートのようにすごいスピードで回転をする)をさせ、故意に
呼吸困難に陥らせる、このとき人は酸欠により、とても気持ちいい
思いをして、信者になってしまう、という話も本で読んだことがある。
若いときに南フランスの田舎町に4カ月ほど住んだことがある。
この隣の町がルールド(Lourdes)というカトリックの聖地になって
いて、2回ほど見に行ったことがあるが、観光バスで乗り付けて
くる巡礼者でとてもごったがえしていた。ストーリーは、ご存知の
方も多いと思うが、ある日、貧しい家の7,8歳の少女がこの町に
ある狭い洞窟に迷い込み、どんどん奥へ歩いて行って、最後に
気絶してその場に倒れてしまった。救助に来た人に助けられ、
一命を取り留めたが、そのときにこの少女は「私は聖母マリア様を
見た」と言ったのである。ここから、周囲の大人たちによって
「純粋な少女の目にしか映らないマリア様が出現する洞窟」という
ような話が作り上げられ、「ルールドの奇跡」と呼ばれる、聖地の
誕生となったわけである。ここでも、両親に叱られた少女の、
長時間歩行による精神的・肉体的疲労、洞窟の最奥部の空気の薄い
場所、がキーワードになる。あきらかに彼女は酸欠を引き起こし、
脳内麻薬の分泌により、気分よくなって、教会で礼拝のときに
教えられたマリア様の知識をベースにして、幻覚を見るに
至ったのだと思われる。
マラソンなど長距離走の選手も、呼吸を乱して、酸欠を引き起こす
ことがあり、それでもハイな気分になれる。いわゆるランナーズ・
ハイ(runners’ high)と呼ばれている現象である。
私の母親も、入院中はさんざん苦しんだが、臨終のときは意識が
薄れていくと同時に、とても優しくおだやかな笑みを浮かび始め、
最後は本当に笑っているかのような死に顔になった。
中国語で酸欠を引き起こすのは難しい。自分で自分の首を締めながら
、そり舌音の練習でもしない限り、無理であろう。我々はやはり
知識欲や達成感で、ハイな気分になり、前進したいものである。

★ 本日の一文
大直若屈 大巧若拙 大辩若讷
まっすぐな性格は、ときには曲がって見え
手先の器用な人は、ときには不器用に見え
弁舌のたつのは、ときには口下手に見える
人の才能は、ストレートに外に現れることは少ない。


にほんブログ村 外国語ブログ 中国語へ
にほんブログ村