漢字の並べ方 4字成語による検証

前回は2文字の単語を調べたが、今回は4文字の成語の場合を
見てみたい。要領は全く同じで、比較的簡単である。以下に
規則1.2.を再掲する。文中の術語については、前2回の
記事をご参照いただければ、幸いである。
規則1 漢字はその意味と文法上の要請に従って並べる。
規則2 上記をクリアしたあとは、漢字は声調の順に並べる。

明治・大正時代に日本では、ヨーロッパから入った多くの
文明用語を漢字語に翻訳した。物理、経済、哲学、数学etc。
なんと「動物」、「植物」も当時日本人が創り出した訳語で
あった。それを、当時中国から来ていた留学生が本国に
持ち帰って伝え、今日の中国語が形成されている。それ以前の
中国にはこれらの単語はなかった。では、どのように
総称としての「植物」を表していたのだろうか。
「花草树木」がその答えである。これは、4つの漢字をただ
羅列しただけなので、規則1の入る余地はなく、いきなり2の
方からスタートできる。「花」は陰平、「草」は上声、
「树」は去声、「木」は「モク、ボク」なので入声、
というように、規則どおり並んでいる。では「動物」の方は
どうだろうか。これは、「飞禽走兽」という。これは、規則1と
2の両方からの解釈が必要である。「飛ぶ鳥」と「走る獣」という
それぞれのセットは、規則1の意味上・文法上の要請で崩せない。
あとは各セットのどちらを前に持ってくるか、後ろに持って
くるか、だけである。ここで、「飞禽」と「走兽」の頭の文字を
比べると、それぞれ陰平と上声なので、「飞禽」を先に持って
くるわけである。
ここからは1と2が錯綜して、少しだけややこしい。「ありと
あらゆる手段で」という意味を表す「千方百计」。
「たくさんの」という意味の数字と、それが修飾する「方法」や
「計画」という名詞で成り立っている。4文字のポジションを順に
それぞれ、A、B、C、Dとすると、AとCには数字が入り、BとDには、
被修飾語の名詞が入る、というのは規則1からである。そのあとは
規則2だが、まず「千」と「百」の比較は、陰平と「百」は
「ヒャク」なので入声、「千」の方が優先される。「方」と
「计」とでは、陰平と去声で、「方」が先になる。「たくさんの
山や川・湖を乗り越えてやってくる」などというときに使われる
「千山万水」。これも前例と同じく、AとCには数字が入り、
BとDには、被修飾語の名詞が入る。数字は陰平と去声、被修飾語の
方は、陰平と上声なので、上記の順番になる。
この規則に当てはまらない例外があって残念である、と前回
書いたが、その理由が全くわからないもの、規則を知らない、
教養のない新聞記者が最近になって作った造語、など、その
ジャンルはいくつかある。
この前、六六さんという中国で人気の女性放送作家が書いた
「蜗居」という小説を読んでいて、「前平后板」という言葉に
ぶつかった。他で見たことないので、おそらく六六さんの
造語だろうと思うが、さすがに教養のある人は、規則を
はずさない。主人公の女性が、セックスアピールがないのに、
お金持ちの男性に見初められる、という下りで、その女性を
形容して「胸はひらぺったくて、お尻は板のよう」と
表現している。AとCには場所を表す言葉が入り、BとDには、
状況を表す言葉が入る、というのが規則1の要請である。
あとは規則2で、「前」は陽平で、「后」は去声、「平」は
陽平で、「板」は上声になっている。
漢字の並べ方の規則を知っていると、うろ覚えの成語を
思い出すときには、特に役に立つと思う。

この漢字の並べ方に初めて接したのは、かなり前のことである。
1969年の丁邦新という人の研究論文を見たのが最初である。
今回、神保町の東方書店で本を漁っていて、白帝社の
「中国語研究」の第49号に、南京大学の马清华 教授の
「并列复合词的有序化机制」という論文が掲載されて
いるのを発見し、思わず「おおっ」とうなってしまった。
教授の論文には、他の研究者の文章もたくさん引用されており、
この方面の研究が連綿と続けられていることを知って、
ちょっとうれしくなった。

★本日の一文
自由不是想干什么就干什么,而是想不干什么
就不干什么
自由というのは、したいことができる、ということ
ではなく、したくないことをしなくてすむ、という
ことなのである。

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