比較文

比較文は難しい、というか、ややこしい。
日本語と中国語が似ていて、ヨーロッパの言語と異なる点は、
等物比較にこだわらず、

「私の持っている本は、あなたより多い」、
「我拥有的书比你多」

のように、「本」と「あなた」を直接比べられる点である。
ヨーロッパ語では、「本の数」と「あなた」は比べられない
と考えて、代名詞を放り込んで「-than that of-」とか、
「-que celui de-」のように、同等のものの比較に
持ち込まなければ気が済まない。

では、日本語が中国語と異なる点はどこだろうか。

日本語はシンプルな形を取っているだけに、多義性が常に
問題になる。
花子は10歳、太郎は生まれたばかりの赤ちゃんで花子の弟、
そして2人共、おばあさんから見たら、かわいい孫である、
というシチュエーションで次の文章を見てほしい。

「おばあさんは花子より太郎が好きだ。」

これですでに2通りに解釈できる。
「おばあさんは両者に愛情を注ぐが、太郎の方により傾斜している」A型
「おばあさんも花子も太郎に愛情を注ぐが、おばあさんの方が激しい」B型

花子は愛情を注ぐ能動者にもなり、注がれる受動者にもなりうる。

中国語ではこの手の混乱は生じない。我々学習者にとっておなじみの
「比」を使った比較文は、なんと規則上、主語の比較しかできない
ことになっているからだ。これについて、相原 茂先生(だったと
思うが)の愉快な笑い話がある。大体のストーリーは、次のような
ものである。

ー中国から来た若い留学生を連れて、水炊きを食べに行った。具は
豚肉と白菜である。若い人に肉をたくさん食べさせてあげようと
思って、自分は遠慮して、豚より白菜の方が好きだから、あなたは
どんどんお肉を食べてください、という意味を込め、習いたての
中国語を使って
「我比猪更喜欢白菜」
と言ってみた。すると相手は大いに驚いて、
「日本のブタは白菜を食べるのですか」
と質問してきた。−

「比」は主語の比較しかできない、なので、これだと前述のB型の
意味しか表せないのである。誤解を生じたもう一つの原因は
「猪」だけで「豚肉」を表せると思ってしまったこと。日本語は
「ギュウ」とか「ブタ」で食肉を表すが、中国語では「鶏」が動物か
食肉かのちょうど境目で、ブタぐらいの大きさになると、「猪肉」とか
「大肉」とか「肉」をつけないと食肉の意味にならず、動物そのものの
意味になってしまう点も作用してしまったのである。

では中国語で、目的語の比較をしたい場合はどうしたらよいのか。
インフォーマントから得た答えは2通り。
1.我喜欢白菜胜于猪肉
2.比起猪肉,我更喜欢白菜

1.は最も簡潔で引き締まった文体だが、かなり固い文語調である。
ワレノ ハクサイヲ アイスルコト ブタニクニ マサル という
感じで、日常会話の時には、ちょっとどうかと思う(個人的には
この言い方が一番好きだけれど)。情報提供者は、38歳、上海出身
上海在住の女性。語学系の大学準教授。
2.が一番自然だろうか。情報提供者は、29歳、遼寧省鞍山出身、
日本人と結婚して神戸市在住の女性。

実際の会話では、もっとくだけた調子で、長ったらしく言う可能性も
ある。下の文章は自作。
3.猪肉和白菜,我两个都喜欢,但是呢,相对来讲,我更喜欢白菜。

あと中国語の比較文には、否定形で「没有」、「不比」、「不如」
などを使ったバリエーションも豊富で、本当にややこしいと思う。

★本日の一文

谁知盘中餐 粒粒皆辛苦

お皿の上の米の一粒一粒が苦労の塊であることを、いったい誰が
知っているのだろうか。(食べ物を粗末にしてはいけない)

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