This is a pen

私の大先輩で、フランス語を上手に操る人がいる。発音は聞くに
堪えないほどひどいが、豊富な語彙力で強引に会話を成立させて
しまう、怪力の持ち主である。その人がスピーチを英語で
しなければいけない機会が増え、最近熱心に英語を勉強している。
なかなかの努力家だが、この前会って話をしたとき「This is
a penは、とうとう役に立たなかった」とおっしゃった。最初は
何のことかわからなかったが、よく聞いてみると、中学1年生の
英語の教科書の冒頭にあった例文がThis is a penであったが、
この文章を実際の会話で、口にする、または耳にするチャンスは、
めぐってこなかった、ということらしかった。私のときの教科書も
確か同じだったと思う。つまり、かなり長年にわたり、わが故郷の
中1の英語の教科書はそのようだったのだろう。最初聞いたとき、
「そりゃあそうだろう。ペンを指さして、これはペンです、などと
おマヌケな発話をする機会はそうそうあるわけがない」と思った。
それがペンかどうかは、日本人でも外国人でもだいたい見たら
わかるからである。これだけの話だが、よくよく考えてみると、
この話は語学の教学という面で、とても深い内容を含んでいる
ことに気がついた。ひとつは語学の実用性、ということ。
もうひとつは、それに関連して、教材を作成する人は、どのような
例文を立てるべきか、という点。大雑把に分けて、語学の勉強は、
研究語学と実用語学に分かれる。研究語学は主に大学の先生の
仕事で、実用語学は、実際に語学力を活用して、いろんな活動を
しようとする人の勉強である(私はこの2者のちょうど中間、
内野手と外野手がお互いに譲り合って、テキサスヒットに
なりやすいあたりを狙っているのだが)。「実用的」の意味範囲も
広そうである。習った文をスバリそのまま何も加工せず、
使えるものだけを実用的とするか、応用範囲までも含めるか。
すぐに使えるものとしては、「旅行会話集」とか、電子辞書に
よく収録されている「実例集」、Tシャツにそのまま使えそうな
フレーズをいくつも印刷した「指さしTシャツ」などがある。
このあたりになると、文法とか発音とか、うるさいことは
一切不要で、「開始」から「実用」までの距離が最も近い。
その日のうちにも実用に供することができる。欠点は範囲が
狭すぎて、これに基づこうとすると、行動のほうが大きく
制限されてしまうこと。またもっと言えば、この程度の範囲なら、
実は語学など必要ないのである。ジェスチャーとか、実物を
指し示す行為、表情または周囲の雰囲気だけで、意思は通じて
しまう。つまりこれらは「学習」の範疇には入らない、といえる。
やはり、いくら実用語学といえども、発音を覚え、仕組み
(文法)を習い、単語量を増やして、話したり聞いたり読んだり
書いたりできるようになるほうがよいと思う。かなり時間と
手間がかかるけれど。つまり、「This is a pen」から得られる
ものは、「これはペンです」という訳文ではなく、SVC構造だとか、
これら常用単語の意味だとか、be動詞の活用だとか、そういう
知識がメインで、それを基にして、ほかの必要な言い回しを
自ら作り出して表現したり、相手の言うことを聞き取れるように
なってください、というメッセージなのだと思う。文章全体を
暗記する練習が上達に効果がある、ということで、実践されて
いる方も多いと思うが、これとても何も「そのまま使用」を
狙ってのことではなく、語感を磨き、より広い範囲を目指して、
口が滑らかに動くように、という目的で行われるべきだろう。
となると、教材を作成する側も、この点に鑑み、構造がわかり
やすく、応用が利きやすく、常用単語をふんだんに使った例文を
どんどん立てるべきだと思う。単語や熟語も含めて、既習事項が
少し後で、また繰り返し出てくるのが望ましいとされている。
限られた紙幅でできるだけ多くの情報を載せようとするあまり、
反復が全くない本も時折見かけるが、学習者が自分の記憶と
理解を確認しながら、先に進んでいけるように工夫されて
いる方が良書だと思う。



★本日の学習進捗状況
久しぶりに少し進捗したが、相変わらずペースがのろい。

1.単語帳(Campus Wide)
11冊目 32ページ目(全69ページ、1ページに30単語)

2.論説体中国語読解力養成講座
89ページ目/132ページ

3.中国語表現300例
108ページ目/156ページ

にほんブログ村 外国語ブログ 中国語へ
にほんブログ村