翻訳指南書2冊

なんとか外国語を翻訳する能力を高めたいと思う。会話、おしゃべりも実は非常に高度な語学力が
要求される。検定試験の一部を構成していることからもそれはわかると思う。それと双璧をなすのが、
翻訳技術だろう。おしゃべりの難度は、相手の実力にも大いに左右されるが、翻訳も同じで、
難しいものは本当に難しい。というわけで、それに関する面白そうな参考書はないかと、物色していた。
なかなか開始できていない「ビジネスリテラシーを鍛える中国語」もそうだし、以前勉強した
「300例」もそうだが、この方面の学習意欲はなかなか衰えない。本当に何とかしたい。抽象的
だけれど、考え方としては、1型.翻訳のポイントをできるだけ「ルール化」、「見える化」すること。
2型.ありとあらゆる分野の翻訳に当たって、場数を踏むこと。やはり分量が多いのは、すごい強みだと
思う。そんでもって、うつろな目で本屋をうろつきながら見つけたのが下の2冊。まずは「井上一馬の
翻訳教室」(筑摩書房)1500円+税。筑摩書房なんて、とても有名な出版社だけど、自分には関係ないわ、
と思っていた。ところがどこにご縁が転がっているかわからない、この本は気に入ってしまった。
不思議な点が2つ。ひとつめは、この本は、なんと2004年初版で、自分の買ったものは重版なし、
1回きりの発行。なのに、大型書店の目立つところに山積みにされていた。翻訳技術書フェアでもなく、
最近、物故した作家を偲ぶコーナーでもない。なぜに10年もたって山積みになっているのだろうか。
もうひとつの不思議は、不思議というよりも、この作者の見識。この本は前書きがなく、いきなり
本文に入る。英文和訳のコツを丁寧に解説・・・・。普通の感覚なら、題名は「英文翻訳教室」とかに
するとか、前書きで、「英文和訳に特化しています」とか、断るはずである。和文英訳だって、
中文和訳だって、立派な翻訳のはずなのに、一切弁明なし、注釈なし。この作者の頭の中では、
「翻訳=英文和訳」で、他のパターンは考えられないのであろう。すがすがしいばかりのデリカシーの
欠如、でも個人的には、こういうイッチャッテル人が大好きである。オビにある「翻訳家に向く
4つの資質」1、は自信あり。2は全然ダメ。3.4はどちらとも言えない感じ。総合得点では、自分は
向いていない方に入ってしまいそうである。気を取り直して、中身を読むと、とても実践的な内容で
面白い。「in almost all sporting events」は「ほとんどあらゆるスポーツの試合では」とせず、
「あらゆるスポーツの試合では、必ずといっていいほど・・」としたほうが日本語が生き生きと
しますよ、とか、なるほど、おっしゃるとおりだと思う。「Then foxes barked in the hills
and deer silently crossed the fields,half hidden in the mists of the autmn mornings.」の
「half hidden」の訳が、きっと難しかろう、「朝もやの中に半分隠れた鹿」では、語学のセンスを
疑われるぞ、との仰せだけれど、ここは中国語学習者なら「时隐时现」とかいう4字成語で充分に
鍛えられているので、慌てず騒がず「秋の朝もやに見え隠れする鹿」と訳してのけるだろうと思う。
「語順」ということで考えれば、総合評価では中国語は、英語よりも日本語の語順に似ている。
よくSVOかSOVかだけの単純比較だけで語られることが多いけれど、動詞の前に副詞が立つ、とか、
関係代名詞がないため、ほぼ完全な前置形容になる点なども含めて考えると、やはり日本人は
中国語の方に親近感というか、安堵を覚えると思う。しかし、その英語においてさえ、できるだけ
前から訳していきなさい、とこの本は教えている。「We were back at Tchaka’s house, with less
than half an hour to go, when Steve finally arrived.」
「when」以下を先に訳したくなってしまうが、ここは一番、思いとどまって、「我々がチャカの家に
戻ったとき、もう出発までの時間が30分を切っていたのだが、そのときになってようやく
スティーブが現れた。」としたほうがスマートよ、ということらしい。これも個人的には全面賛成
である。薄い本だけど、けっこうな内容の名著だと思う。
もう1冊は有名な武吉次朗先生の力作「日中・中日 翻訳者必携 実戦編」。(日本僑報社)1800円+税。
出たばかりの本である。もとの「翻訳必携」(写真左)の方も、翻訳の全体を俯瞰する内容で、上述の
1型に当たる書物だが、内容が淡白で、イマイチ熱中できなかった。ところが今度のは、これでもか
というほど、単語レベルにまで落とした具体例満載で、完全に2型である。題材は主にニュースに
取っているので、硬いけれど、中文和訳のコツが掴める。どういう単語があるかというと、
「应休未休」「国家」「中学生」「问题」など。

「应休未休」「マサニ ヤスム ベキニ イマダ ヤスマ ズ」と読み下すとわかるが、
「有給休暇未消化分」のこと。
「国家」 場合によっては「諸国」「国々」と訳す必要あり。
「中学生」これは有名で、日本の「中高生」に当たる。 
「问题」 問題のほかに、課題、物事、と訳したほうがよい場合もあり。

80歳を超えられて、なおも健筆を振るっておられる武吉先生のことが確認できて、うれしくなる
1冊であった。


★本日の学習進捗状況

1.単語帳(Campus Wide)
13冊目 8ページ目(全39ページ、1ページに30単語)

2.祖國的陌生人(6〜274ページ)「三峡纪行」「从上海倒西安」「北京故事」「 穿梭历史的江南」
125ページ目。新幹線内で第3,4,5話を読了。第6話の 「 穿梭历史的江南」に突入。

3.中国語作文−その基本と上達法(1~253ページ)
46ページ目

4.音読「三国志演義」(10−67ページ)
27ページ目

5.音だけを聞いて長文を暗記する「耳が喜ぶ中国語」(全110課) 
13課

6.論説長文読解「ビジネスリテラシーを鍛える中国語 I」(1課〜30課)
まだ開始できていない。

•祖國的陌生人 p61-62(三峡纪行)
「他是我們這兒的首富,是個傳奇人物。」一位本地人對我說。他沒受過正規教育,當過兵,
他從一個小店舖開始起家,小店舖逐漸擴大,變成了酒店,又變成了娛樂場所。每個地方
都有這樣人物,他們在中國社會眼花繚亂的變遷中,抓住了一次又一次的機會‧其中
既有個人的精明與勤奮,也服膺那些不能放在桌面上的隱秘世界規則。從巴爾扎克筆下的
巴黎商人,到美國的強盜資本家,再到俄羅斯的寡頭,他們都分享著類似的精神。
「彼はうちらのとこじゃあ、一番の金持ちさ。伝説中の人物だよ。」地元の人が教えてくれた。
彼はまともな教育を受けたことがなく、兵役も経験していない。小さな店から興して、
その小さな店がだんだん大きくなっていき、ホテルになり、更に娯楽センターになった。
どこにでもこのタイプの人間はいる。彼らは目まぐるしく移り変わる中国社会で、一度また
一度とチャンスを捉えていく。そこには個人の才覚や頑張りもあれば、人には見せられない
闇の社会の掟への確たる服従もある。バルザックの描くパリの商人から、アメリカの強奪資本家、
更にはロシアの寡占業者に至るまで、彼らには、全て共通する気概があるのである。


にほんブログ村 外国語ブログ 中国語へ
にほんブログ村