京腔

小学校5年生のときに仲良しの友達の家に遊びに行った。学校の
授業はもちろん、普段遊ぶ時も当然、日本語だけの世界で暮らして
いたのだが、彼は家に着くや否や、突然、聞いたことのないヘンな
言葉で両親と話し始めた。友達は4代目の華僑で、両親の厳しい
要求のもと、家族からだけではなく、別に塾のようなところでも、
普通話を勉強させられていたようである。このときが、自分が
人生で初めて中国語に接した瞬間である。友達の家は台湾からの
移民で、更に元をたどれば「漳州」系らしかった。でももちろん、
闽南语ではなく、家中あくまでも普通話を話そうと努めていた
ようである。このとき受けた衝撃があまりにも強くて、すぐに
自分も中国語を勉強し始めた。中1で英語を習い始めるより、
1年半ほど早く開始したことになる。爾来、台湾など、中国の
南方とは非常に縁が深い。17歳のとき、生まれて初めて行った
外国も台湾だし、回数的にもダントツに多いのが台湾である
(30回は越えていると思う)。南方系の発音には今でもとても
親しみがあり、逆に、北方系の中国語は、中国語の中でも、
外国語だと感じてしまう。中学1年のときにちょうど始まった
テレビの中国語講座を食い入るように見ていたが、そこで
話される中国語に最初はかなり違和感を感じたのを覚えている。
最も奇異に感じるのはやはり、南方の言葉にはない、例のそり舌音。
いまだにものすごく聞き取りにくい。発音を練習されている
人から、そり舌音の発音方法について質問を受けると、
日本人には比較的発音しやすいci,zi,siの発音で、それぞれの舌の
位置を後方へ(軟口蓋方面へ)1cmほどずらして、それ以外は
全く同じように発音すればいいですよ、と答えるようにしている。
北京あたりでは、このそり舌化がことのほか激しい。以前の
部下で、小柄で頭の切れる人がいた。彼は北京の北西、八達嶺に
程近い延庆の人であった。そり舌化がハンパなく、私は自慢では
ないが、彼の話がほぼ全く聞き取れなかった。北京市内出身の他の
同僚から、自分らでも延庆の人の発音は非常に聞き取りにくい、
外国人のあなたが困難に感じるのは仕方がない、などと慰められたが、
おそらく舌を、1cmではなく2cmくらい、後方へ引っ張って
いたのではないかと思う。「吃着大糖儿说话(大きなアメ玉を口に
含んで話す)」と、同僚から、からかわれていたが、一瞬、彼の舌の
長さを見せてほしくなった。が、思いとどまった。京津方言の
難しさは、実はこのそり舌音以外にもある。普通話や南方語では
あまり目立たない「軽声化」である。特に固有名詞には軽声はない、
と教わったのに、北京語では2音節語の後ろの音節、3音節語の
真ん中の音節が、どの単語でも弱勢になりやすい。「杨家桥」は、
南方の人や、外国人の標準語学習者が読むと、はっきりとした
3拍の言葉である。それぞれの音節の長さはほぼ等しい。
ところが、北京の人が読むと2拍に聞こえる。最初は早口だからかなあ、
と思っていたが、どんなに「ゆうううううううっくり、読んで
ください」とお願いしても、「yaaaaaang・チャッ・qiaaaaaao」と
読んでくれる。北京の「相声」や山東省の「山东快书」でも、
長短にすごいメリハリがあって、リズムが心地よい。しかしやはり
相当聞き取りにくい。南開大学に留学していた友人に聞くと、
全然問題なく、むしろziだかzhiだかわからない南方語の
リスニングの方が難しいという。やはり、最初に接した音の
影響というのは、外国語学習においては大きいのだと思う。
あとは単語、だが、これはどこの方言も同じで、そこの土地独特の
ものがある。でも、北京という土地柄、標準語に紛れ込んでいるものも
多い。すでに、自分が標準語の単語として暗記しているものも、
実は北京方言起源であったりして、驚く。これについては、下記の
本が面白いと思う。以下に収録されている単語を少し紹介する。

「北京に吹く風」 篠原 令 阿部出版 2005年 1200円+税

これまで標準語として覚えていたもの。
盖了,开涮,挤兑,没劲儿,没辙,抓瞎,侃大山,唠嗑儿,
差劲儿,够呛,架不住,溜达,转悠儿,局子,倒爷,捣腾,
二奶,汆,蹭饭,宰人,见外,压马路,感情儿,稀罕,压根儿,
抠门儿,矫情,老外,二百五,二把刀,装蒜,归了包堆儿,
叫板,数落,消停

今回新たに覚えたもの。

小王特不那个
王さんたらばかみたい

小黄喜欢刷夜
黄君は夜遊びが好きだ。

我们特别瓷器
私たちは特に親しい仲だ。

这衣服穿起来,特萨。
この服は着てみると、とてもおしゃれだ。

他是个二皮脸
彼はあつかましいやつさ。

これらの単語も流行の波に乗れば、標準語に入って、普通の辞書に
収録されるかもしれない。



・蜗居  P3
房产经纪人打电话来约看房子。到地方一瞧,小小的两室一厅,
属于90年代初的设计,所有的房门都对着客厅开,厨房,厕所,
两个卧室。所以那个厅纯粹是过道,基本上放不了什么家具。
当时的房主就任那一片空着。海萍不是很满意。两件卧室,
一间朝北,一间朝东,就这种户型,来看的人居然占满了小厅,
总共得五对夫妻吧!有老有小。再加上挤门口的几拨房产经纪人,
整座屋子给人的感觉及其压抑。海萍面上不露声色,
心里暗暗“切“了一声,想:“造势啊!吓人啊!以为来的人多
就卖得掉啊!这种房子,送给我都不要!孩子难道住北间?
电脑电视不还是没地方放吗?这种生活,与我心中所想的,
差别太远了吧!”

不動産ブローカーから、家を見に来いという電話がかかってきた。
行ってみると、小さな2LDKで、90年代初めごろの様式だった。
台所、トイレそれに2つの寝室、それぞれのドアが皆、リビングに
面しているので、リビングは結局、完全に通路になってしまい、
家具がほとんど置けない。そのときの入居者は、そこを空けたままに
してあった。海萍は、いまひとつ気に食わなかった。北向きと
東向きの部屋がひとつづつ、こんなちっぽけな家のリビングが、
見学者であふれかえっていて、老いも若きも含めてなんと5組の
夫婦が見に来ていた。更に玄関のところには、何組かの不動産屋が
ひしめき合い、家全体がひどい圧迫感に満ちていた。海萍は顔や
声にこそ出さなかったが、心の中では「チェッ」と吐き捨てた。
「サクラだらけで、コケおどしだわ。見に来る人が多ければ、
みんなあせって買うと思ってやがる。こんな家、タダでも
いらないわ。北向きの部屋に子供を入れたりできないし、
パソコンやテレビを置く場所もないなんて。こんなところで
暮らすなんて、こっちの思惑とは、大違いよ。」

・不是很满意 
以前にもこのブログでも取り上げた不是+很+形容詞で、しかも
後ろに「的」がつかない文型。口語ではよく登場する。逆に
初級教科書風の「不很」+形容詞の方が少ないのが、最近の傾向。

・拨bō
「拔bá」とは別字。大勢の人を、グループ分けするときなどに
使う。「組」。

・造势
いくつかの辞書に収録されているが、愛知大学の「中日大辞典」の
訳が、ここでは一番ピッタリしている。「意図的に、情勢を作り出す。
雰囲気づくりをする」。もちろん、意訳する必要があると思う。

・卖得掉
可能補語。この部分、直訳すると「来る人が多ければ、売って
しまえる、と思い込んでいる」。でも、おそらく不動産屋は、家を
欲しがっている顧客のあしもとを見て、意図的に焦らせよう
(サクラを動員して)としているので、上記のように意訳した。

★本日の学習進捗状況
少し前進。

1.単語帳(Campus Wide)
11冊目 65ページ目(全69ページ、1ページに30単語)

2.「蜗居」(1〜303ページ)
17ページ目

3.日中・中日翻訳トレーニングブック(90~146ページ)
121ページ目

4.茉莉花 2回目音読完了。3回目。37ページ目。

5.音だけを聞いて長文を暗記する
耳が喜ぶ中国語 6課

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