語学留学

出版社に勤める友人から聞いた話だが、語学書を出版するときは、
「留学」、「ネイティブ」という言葉が非常に有効で、これらを
本の帯に適宜、散りばめるだけで、本の売れ行きが3割は違って
くるそうだ。ことほどさように、日本人は「留学」に憧れ、
「ネイティブ」とお友達になりたいのだそうである。
しかし、語学留学は一般に失敗する。留学して上達したと思って
いる人が多いが、私から見れば明らかに失敗である。向こうで
友達ができ、「你好」、「谢谢」、「真的吗?」などの挨拶言葉や
短いフレーズがスラスラ出てくるようになり、免税店で電卓片手の
ジェスチャーお買い物ができるようになると、なんとなく会話が
上達したかのような、また外国語環境で仕事も、母国語と同じ程度に
高等な言語活動もできるようになったかのような甘美な錯覚に
陥ることができる。しかし、現実の世の中はそこまで甘くはなく、
留学から帰って来た人に、通訳やガイドやまとまった文章の翻訳
などを頼むと全くできないことが多い。ということは、上達したと
自慢しているその中身は、まるで実用に供さないシロモノだと
いうことになる。まれに、優れた人にも出会うが、そういう人は、
留学に行く前からできていたか、向こうに行ってから、「普通の
勉強」をしっかりとやった人かのどちらかである。ではなぜほとんど
全部の人が失敗するかというと、留学なんかしてしまうと、語学の
勉強をする時間がなくなってしまうからである。語学は自分が
必死になって勉強する以外、上達する道が一切ない、という性質を
持っている(下記の項目1と2)。「勉強法」の記事で、何度も書いたが、
もう一度しつこく上達する瞬間について、自分の考えをまとめる。

項目1.目と耳を駆使して、脳に単語などの関連情報をインプット
しようとしているとき
項目2.口を使ってインプットした情報を確実に自分が使えるように
なるまで発声し、記憶を定着させながら、音でも(文字を有する
言語なら)文字でも、意味を把握しようとしているとき。
項目3.把握した情報に思い違いがないか、経験者にチェックして
もらい、ミスがあれば直ちに修正しようとうるとき。

さて、外国に留学に行って、これらのことを実行することは、日本
国内で実行するより難しい場合が多い。なぜならば、留学先には、
いろいろとステキな誘惑が待ち受けているからである。
「せっかく北京に来たからには、万里の長城くらい見ておかなくっちゃ」
「せっかく中国に来たからには、おいしい中華の食べ歩きをしなくっちゃ」
「せっかく中国に来たからには、ネイティブのお友達をつくらなくっちゃ」
「せっかく知り合った同学なんだから、お誕生日会くらい出なくっちゃ」・・・
おびただしい数の「せっかく」が、波状攻撃で津波のように押し寄せ、
もともと薄弱だった学習者の意志と意欲を粉砕してしまう。また
留学しようとする人の考え方のフローチャートが、奇妙に変化して
しまう点もおもしろい。
留学前;
どうしても語学を使わざるを得ない環境に自分を置けば上達するだろう
→それには語学留学がいい。
留学後:
普通の勉強なら日本でもできる、ここでは、ここでしかできないことを
やろう→それには現地人の友達を作り、観光旅行に行き、おいしいものを
食べながら、会話の練習をしよう。(つまり、確実に上記項目の
1.2.3.から、はずれてしまう)。

使用前と使用後では、明らかに行動様式が変わってきている。しかし
残念ながら「環境におく」だけでは絶対に上達しない。どうしても
泳がなければいけない環境におく、とかいって、泳げない人を太平洋の
真ん中に放り込んだら、泳げるようになる前に死んでしまう。
語学の場合、死んだりしないが、できない状態には何の変わりもない。
「止むを得ない環境に置いた」あと、その人が勉強すれば、上達する
のである。しなければ、しないのである。結局つきつめれば、するか、
しないか、だけの差となる。場所は中国でも日本でもモロッコでも
同じである。変な誘惑がない分、また慣れていていろいろな行動が
しやすい分、日本で勉強するほうが圧倒的に有利であるという理屈である。
あと、たとえ多少不自由でも、日本人がなんとか暮らしていけるような
場所なら、助け合える同胞もたくさん住んでいたりして、別に現地の
言葉ができなくても、差し支えないことが多い。言葉が全然
できなくても、外国で暮らしている日本人はすこぶる多い。つまり、
「止むを得ない状態」なんて、そうそう簡単には出現しないのである。
外国で暮らすことは、語学以外で、ものすごく有益なことだと思う。
異文化に触れたり、生涯の友人を作ったり、日本では経験ができない
ことを、身をもって知ることができる。外国へ行ったなら、語学なんか
やっている場合ではないのである。もっと他にやるべきことが、
いっぱいある。たくさんの「せっかく」を享受し、自分の人生をより
豊かな方向へもっていくのが、総合的に見て正解だと思う。そして、
今は21世紀なので、つまり、幕末や明治ではないので、日本国内で十分、
外国語が勉強できるような環境が整っている。勝海舟のように
英語のために、太平洋を渡る必要は全くない。要するに語学留学とか
いうので、話がややこしくなるのであって、「長期滞在型海外修学旅行」と
呼び方を変えればよい。それだけで、多くの誤解は解け、無駄な経費が
節減できると思う。次回は、「大成功」を収めた、昔の「語学留学生」の
話をご紹介したい。

本文とは関係ないが、昨日の日記に、容量の関係からか載せられ
なかった写真を掲載する。お花見の写真である。


柳树


樱花盛开


活力十足,奔放不羁的朋友们


油菜花


蝴蝶兰

★ 本日の一文
下之事上也,不从其令,从其所行

下の者が先輩に仕えるときには、その言葉よりも、
実際の行動から学ぶべきである。

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